ラフマニノフ
幻想的小品集 作品3より 前奏曲 嬰ハ短調
10の前奏曲 作品23より 第2番、第6番、第7番
絵画的練習曲集 作品39より第1番、第3番、第5番、第9番
タネーエフ
前奏曲とフーガ 嬰ト短調 作品29
ショスタコーヴィチ
ノクターン(バレエ音楽「明るい小川」より)
ピアノ・ソナタ 第2番 ロ短調 作品61
「君の話すロシア語は文学的で格調高い」と聞くたび、褒め言葉として発せられたこの一言に私は違和感を覚えるようになっていた。バイリンガルを自負していながら、ロシアをわかったつもりに過ぎないのではないか。ピアノを前にしても、「哀愁漂い」「深淵で」ときに「力強く」「感動的」といったテンプレートに嵌る演奏をつくり、実在しない理想形のロシアを描いていないかと自問するようになった。
モスクワ音楽院に学び、絶えず社会の実態を目の当たりにした二年間で私は大きく成長させられたように感じる。いまのロシアにあってはソヴィエト時代の記憶が薄れ、ときに狂おしいほど全体主義が美化される。私的な幸福感を最大の価値とする思考は土俵の端へ追いやられ、社会に吹き荒れる暴風から各々の精神生活を護らなければならなかった時代を彷彿とさせる。
ラフマニノフ、タネーエフ、そしてショスタコーヴィチの作品の一つひとつが自叙伝の一節のようだと思う。破壊的な変化を経験したロシア社会に寄り添うように時系列にならって作品を配したが、それぞれにおいて表現性と儚い叙情性のゆるやかな境界を描き出すよう努めた。
このアルバムはロシアを見つめなおした私の、音楽家としての第一歩である。もてはやされる表層的な表現に終始せず心のうちのすべてを伝える語り口を目指した。温かく豊かな音色に調整されたカワイのピアノに、私は大きく助けられた。
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△『レコード芸術』2019年4月号『準特選盤』に選ばれました。
△ 読売新聞2019/3/28夕刊にて批評をいただきました。